◆自立の笑顔 商店街から NPO「ニートを社会へ」◆ |
NPOでの就労訓練を経て、パン屋で働く浅井祐介さん(左)=神奈川県横須賀市で
仕事も通学もしていない「ニート」の若者に就労訓練や働く場を提供し、社会へ呼び戻す取り組みを各地のNPO法人が進めている。高年齢化したニートも多く、親は負担の重さに苦しむ。政府も若者向け雇用対策の柱の一つと位置付け、支援を強化している。 神奈川県横須賀市の上町商店街にあるパン屋。十年以上引きこもりが続いていた浅井祐介さん(28)は、九月からこの店でアルバイトを始めた。 若者の就労を支援するNPO法人「アンガージュマン・よこすか」の紹介で週三日、一日四時間働く。客にパンを渡す手つきは、まだぎこちないが、最初の月は約四万円稼いだ。 中学生で引きこもりになり、長い間「自分の中から欲求が出ず、生きているだけ」の状態だった。親の勧めで昨年NPOを訪れ、約一年間NPOが経営する書店で店番などの就労訓練をした後、今の仕事に就いた。浅井さんは「気力が湧かない自分を変えていきたい」と話す。 アンガージュマンは二〇〇四年の設立以来、福引など地元商店街の行事に積極的に参加。今は複数の店が若者を受け入れ、自立のスタートを支援する。石井利衣子事務局長は「引きこもりだからと気を使わず、少々失敗しても受け入れる商店街の懐の深さが、若者を溶け込ませてくれる」と話す。 厚生労働省によると、引きこもりの若者ら十五~三十四歳のニートは一一年平均で六十万人。〇八年のリーマン・ショックに伴う就職情勢の悪化で、進学も就職もせず大学を卒業する人も増加傾向だ。玄田有史東大教授は、家族以外の他人と接する機会がほとんどない二十~五十九歳の「孤立無業者」は百万人を超えると推計する。 ニートの多くは親の収入に頼っている。引きこもりの長男(24)を抱える東京都内の女性(54)は、病気の夫(59)が来春に退職する上、数百万円の住宅ローンが残る。「息子の面倒まで見続けるのは無理。働いてほしい」と悲鳴を上げる。 ニートの高年齢化も進んでいる。両親が死亡すれば頼みの親の年金収入がなくなり、生活保護や貧困層へ転落する可能性が高い。 アンガージュマンのような来所型施設は、自分で足を運ぶ気力のある若者が対象。外出できない重度の引きこもりや交通費を払えない貧困層など、深刻な問題を抱える若者は支援しにくい。こうした層を拾い上げるのが訪問支援だ。 佐賀県のNPOスチューデント・サポート・フェイスは、学校や保護者から問題を抱える子どもの情報を得て、スタッフが家庭訪問する。昼夜逆転の引きこもりの場合、まず根気よく信頼関係を築き、夜釣りなどに誘って外へ連れ出す。次に同じ趣味を持つ若者などを紹介し、人間関係をつくる。農業体験などを通じて少しずつ働くことに目を向けさせていく。 訪問を通じて、貧困や虐待などの問題も把握しやすい。スタッフは行政機関や病院など適切な施設を紹介。家庭や暮らしが安定すると就労がスムーズに進むことが多いという。 玄田教授は「誰もがニートや孤立無業者に陥るリスクを抱えている」と強調。政府はNPOへの支援を強化するべきだと訴えている。 ニート 「通学せず、仕事に就かず、職業訓練も受けていない」という意味の英語の頭文字(NEET)。厚生労働省の定義では、15~34歳で就労も通学も職探しもしていない人で、主婦や家事手伝いも除いている。職場や学校などに居場所がなく、引きこもりに陥る人も多い。政府は支援窓口である地域若者サポートステーション(サポステ)を、2012年度の116カ所から来年度は140カ所に拡充する方針。サポステの運営はNPO法人などが受託し、担っている。 |
東京新聞 2012年12月21日 |
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