福島達也理事長コラム
第109号 就職氷河期は社会事業で回避できるか
 オリンピックの歓喜の声を聴かなくなった同時に、毎日のように暗いニュースが流れている。東アジアの領土問題、シャープやソニーの経営危機、そして、大学卒業生のニート問題・・・。ああ、ついに日本も終わりかと思ってしまう今日この頃であるが、かつて私が懸念していたことが現実になってしまった。
 8月29日の日経新聞の一面に「1万社起業へ支援」という記事が出た。これは、若者らの小規模な企業を促すため、来年から1社当たり数百万円程度の助成制度を創設するというものである。その数がびっくりなのだが、5年で1万社を支援するらしい。制度の名前は「“小さな企業”未来補助金」。何ともかわいくて景気のいい話ではないか・・・。

 いや違う、私はかつて「景気低迷とともに就職はますます困難を極め、人があぶれ、日本経済がどう頑張っても復興しないとわかった時に、政府は最後に、大学生などに起業資金を助成するだろう」と予言したことを思い出してほしい。
 そうなのだ、ついにその時が来たのだ。
 私流にわかりやすく解説しよう。
つまり、「今は大学卒業生の3割が就職できない世の中だけど、これからは大学卒業生の5割が就職できない時代が来ます。そうなると暴動が起きたりクーデターが起きたり、全く無策で派手な新党の政治家がバカスカ当選して政治がめちゃくちゃになります。もちろん経済は韓国中国のはるか下の方でアップアップでしょう。だから、今のうちに就職なんてバカのするものだと思わせときましょう。起業、そう起業はとても素晴らしいもので、会社作るときに国からお金がもらえちゃうんです。そして自分のやりたいことができます。世の中従業員2、3名の小さな企業が99%となり、国民は慎ましく幸せに暮らしましたとさ、終わり。」てな感じである。ばかばかしい。

 そう、私が大学で教える教科は「起業経営」だ。全く迷惑な話である。恐らく助成金欲しさに私の講義はいずれ満員御礼になるであろう。しかし、「社会のため人のため、やりがいのある仕事で自ら社会事業を起こし、新しい公共を作ろう」という私の願いははかなく消え、「とにかく金、金。金がもらえるなら何か作らなきゃ」なんてハイエナのような人ばかりになるのではないか。
 まったく、政府は何を考えているのだろうか。お金を配ればそれで何とかごまかせると思うなんて、本当に無策で悲しくなってしまう。
 かつて、バブル崩壊しかけたときに、政府がまずやったことは、中小企業救済のため特別融資をドカーンとやって、企業はじゃんじゃん借りてバンバン潰れ、そのしわ寄せで好調な企業も一気に傾き、バブルが泡と消えてしまったことを思い出してほしい。中には、潰れることを知りながら借りまくった経営者もいたほどであった。
あの社会現象が再来するかもしれない・・・。
 そこで私の提言だ。
 この「“小さな企業”未来補助金」。申請には事業計画を作る段階から、起業経験者、金融機関、専門家がアドバイスをして支援するらしいのだが、そのアドバイザーに責任を取らせる制度にするべきだ。
 成功したらその利益の何割を成功報酬として渡すが、失敗したら専門家らが補てんするという制度。これなら、審査も相当慎重になり、いいものだけが出てくるだろう。たとえ失敗しても専門家たちが補てんしてくれるから痛くもかゆくもない。これはいい・・・。
 
ただ心配は、そんなリスクがある助成制度なら、アドバイザーに誰か名乗り出るだろうか、ということだ。
でも、テレビの前で偉そうなこと言っている評論家やコンサルタントの先生方は、ぜひそうなったときは支援者として手を挙げてほしいものだ。口では何でも言えるが、実際に新しいものを創り出すということがどれだけ大変で難しいものかわかるだろう・・・。
それもできないくせに「社会を変える」「日本をよくする」なんて簡単に言うな!



特定非営利活動法人 国際ボランティア事業団
理事長 福島 達也
(平成24年9月)

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